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富山地方裁判所 昭和48年(ヨ)36号 判決

申請人 飯野隆

同 尾崎勉

右両名訴訟代理人弁護士 青山嵩

同 近藤忠孝

同 木沢進

同 葦名元夫

同 能勢英樹

被申請人 株式会社セキノ興産

右代表者代表取締役 関野新一

右訴訟代理人弁護士 林喜平

主文

一  申請人らが被申請人会社の従業員たる地位を有することを仮に定める。

二  被申請人は申請人らに対し、それぞれ昭和四八年六月一日以降昭和四九年二月二二日までは月額金一〇万円の割合による金員を、同年同月二三日以降本案判決確定に至るまでは月額金二〇万円の割合による金員を毎月二八日限り仮に支払え。

三  申請人らその余の申請を却下する。

四  申請費用は被申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(申請人)

申請人らは被申請人会社の従業員であることの地位を仮に定める。

被申請人は申請人らに対し、昭和四八年六月以降、申請人らから被申請人に対する解雇無効確認請求事件の本案判決確定に至るまで、毎月二八日限り各金二〇万円を仮に支払え。

(被申請人)

本件申請を却下する。

≪以下事実省略≫

理由

一  被申請人会社が薄鋼板、亜鉛引鉄板その他鋼材一般などの製造、販売を業とする株式会社であることは当事者間に争いがない。

二  そこで、申請人らと被申請人会社との間の契約関係の性質について判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が疏明される。

1  申請人飯野は昭和四五年九月初めころ、貨物自動車(日野レンジャー三・五トン積、富一れ八一二二号)を購入の上、被申請人会社に「傭車」として勤務するようになったが、契約の際、特に辞令その他何らの書面も交付されたわけではなく、口頭で当時の富山店長大菅晃から製品運搬の仕事の内容を教えられ、接客上の注意を受け、車持ち込みでその報酬を月額二〇万円(経費は自己負担)とすることを決め、同人から、「社員並みに扱うから頑張ってくれ」と言われた。また、申請人尾崎(旧姓石割)は、昭和四七年一一月、申請人飯野と同じく被申請人会社との間でいわゆる傭車契約を締結し、貨物自動車(三菱ふそう四トン積、富一れ七九二〇号)を持ち込みで被申請人会社に勤務するようになったが、報酬は申請人飯野と同額であった。そして、申請人飯野は主として高山方面、同尾崎は主として糸魚川方面の取引先への配達に当ってきた。

2  しかして、申請人らは被申請人会社との間でそれぞれ傭車契約を結んだ後は、被申請人会社の他の従業員と同じく午前八時から午後五時半まで被申請人会社に勤務することを義務づけられ(就業規則では午後五時までと定められ、他の従業員には固定残業手当が支給されていた)、午前八時に出勤すると、店長の指揮下にある配車係から当日の配達先、配達内容等を指示され(注文請書による)、これに基づいて製品の積み込み、配達を行なうのが主な職務であったが、申請人らは単に配達をするだけではなく配達の傍ら集金やあるいは新たな注文を受けることもあった。また、配達先が遠隔地であるときは、被申請人会社従業員の中から運転助手が同乗し、申請人らが、被申請人会社従業員である運転手の運転する他の自動車に助手として乗りこんだり、自ら他の自動車を運転することもあった。更に、当日予定の配達が午後五時半以前に終ることがあっても、帰宅することは許されず、成形工場に赴いてトタン板の加工作業を手伝ったり、決算期には棚卸および倉庫の整理を行なうなど、運送以外の仕事に携わることも多かった。したがって、申請人らが、被申請人会社退社後、他から依頼を受けてその所有自動車を運転し運送に従事するなど被申請人から支給される報酬以外の収入を得ることは到底できなかった。

3  申請人らは被申請人会社から報酬として月額二〇万円を給料日に支給されていたが、右金員の中には貨物自動車の維持費用(ガソリン代、保険、修理費その他の諸経費すべてを含む)が含まれており、申請人らには残業手当および賞与も支給されていなかったから、他の従業員の給与に比して、必ずしも高いものではなかった。

4  申請人らは病気等を理由として欠勤した場合でも、右報酬を減額されることはなかったけれども、申請人らが組合結成後三月、四月に何回か行った時限ストに参加した際には、被申請人会社は申請人らの右報酬の中から、他の従業員と同様、一日につき八、〇〇〇円(月額二〇万円を出勤日数二五日で除した金額)の割合で賃金カットを行った。

5  申請人らの被申請人会社における待機場所は、事務所内にあり、同所には申請人らのためのロッカーが備えられていたが、これは、同会社の配達担当、セールス担当の従業員と全く同じ待遇であった。また、被申請人会社が催す新年会、忘年会、社内旅行等には、申請人らも同会社から参加を求められ、会社がその費用を負担して参加していた。

≪証拠判断省略≫

ところで、前記疏明によると、被申請人会社の属する鉄工関係業界で用いられているいわゆる「傭車」とは、貨物自動車を所有者より運転手つきで借り上げ、専属的に自社の運送業務に当らせ、その運賃も一回毎に決められるものではなく、月額いくら(かなりの高額であることが多い。場合によっては高額の基本料に歩合を加味したものもある)という形で決定されるのが大部分のようであるが、反面、自動車に要する経費および事故等による危険の負担は賃貸人側に負担させるという契約形態で、会社側からいえばいわば、右の諸経費、危険負担を免れるための便宜的手段であることが窺われる。

そこで右認定の事実によって認められる申請人らの勤務の実体に則して考えると、被申請人会社は申請人らを勤務時間中完全に拘束してその支配下におさめ、申請人らもまた同会社に対し従属関係に立っていたものと考えるのが相当であり、そうであれば、両者の間には雇用契約関係が成立していたものというべきであって、被申請人主張のごとき単なる運送契約とはいえない。もっとも、≪証拠省略≫によれば、申請人らについては出勤簿、賃金台帳がなく、賃金については基本給、諸手当の区別はなく、また慶弔金および退職年金規程の適用もなく、各種保険等の掛金の徴収、税金の納付もなかったこと、更に作業服が支給されなかったし、社員名簿に申請人らの名前が記載されておらず、申請人らに対する報酬は会社の経理上、発送運賃または運搬費として処理していた等他の従業員と異なる取扱がなされていたことが疏明されるけれども、申請人らの勤務関係が雇用契約であるか否かを判断する重要な基準を使用者との間の支配従属関係の有無に求める以上、右事実をもってしても、雇用契約関係の成立を否定すべき資料とはなりえない。

しかして、前記認定の事実によれば、申請人らは、「貨物自動車持ち込み」で被申請人会社に勤務する契約内容になっているので申請人らの地位はいわば「貨物自動車持ち込み運転手たる従業員」というべきところ、その「貨物自動車持ち込み」の点は、被申請人会社が運転手である申請人らを雇用すると同時に同人らの所有する貨物自動車を賃借したものと解するのが相当である。したがって、申請人らと被申請人会社との間の契約は、雇用契約に自動車賃貸借契約を含んだ一種の混合契約の性質を有するものとみるべきであり、その雇用契約の範囲において労働法上の保護を受けうるものというべきである。

三  ところで、被申請人が申請人らに対して昭和四八年四月一九日付告知書を送付して契約関係を解消する旨通知したことは当事者間に争いのないところ、前示認定のとおり被申請人会社と申請人らとの間には雇用契約が存したのであるから、右告知は、実質的には解雇予告と認めるべきであり、したがって、申請人らは昭和四八年五月一九日限り解雇する旨の通知を受けたものというべきである(以下、「本件解雇」と称する)。

四  そこで、本件解雇の効力について判断する。まず、不当労働行為の主張について判断するに、≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が疏明される。

被申請人会社には従前、労働組合が存しなかったが、従業員の労働条件は時間的にも賃金面でも必ずしもよいものではなかったため、従業員の中に不満を抱く者が少なくなかった。そうした折、昭和酸素株式会社勤務時代に組合を結成した経験を持つ申請人飯野外二名が被申請人会社本社従業員に対して組合結成の話を持ち出したことから、組合結成の気運が高まって、昭和四八年二月二日夜本社従業員一七名(申請人らを含む)が、本部組合に加盟するとともに支部組合結成の運びとなった。そして、組合は同年同月三日被申請人に対して組合結成通告を行った。ところが当日勤務時間終了後、組合が会社の会議室で集会を開いていた席に、取引先である共栄産業株式会社社長西田知正が訪れ、本部組合からの脱退を勧めたのを手始めに、被申請人の取引上の得意先等から主として執行委員長宮崎安弘に対する脱退勧告が相次いだ。それのみならず、被申請人会社社長および経理部長が右宮崎を旅館に呼び出して、本部組合からの脱退と、せめて企業内組合にしてほしいとの勧告がなされた。それにもかかわらず、組合は本部組合から脱退しようとしなかったため、被申請人会社は遂に第二組合の結成を企図し、本店店長らが、非組合員に第二組合の結成を呼びかけるとともに、組合員に対しては本部組合からの脱退と第二組合の結成を勧める等の行為に出、同年三月一日大阪で第二組合を結成するに至った。更に、同年三月二九日未明には、取締役大菅(富山店長)、課長稲場の両名が飲酒のうえ組合事務所に赴き、同所において組合事務所の硝子を割り、机を転倒させて、労働組合旗を焼却する等の暴挙に出るなど、被申請人会社の組合に対する反感およびそれに伴う攻撃は一層激しいものになって行った。このような状況の中で申請人らは被申請人会社との団体交渉に率先して参加し、その席上、申請人飯野は主たる発言者となっていたし、尾崎は誠実な組合員であった。

≪証拠判断省略≫

右認定の事実によれば、被申請人会社は本社従業員による組合結成をこころよく思わず、可能ならばそれから脱退させようと画策したが、必ずしも効を奏さなかったことから、組合の中心的活動家であった申請人飯野およびこれと勤務形態を同じくする同尾崎を実質的に解雇することによって、他の組合員に動揺を与え、組合の弱体化を図ろうとしたものであることが推認できる。

被申請人は、申請人らが道路運送法四五条に違反する運送業者であるので解約(解雇)した旨主張するけれども、同条がその対象とするのは、独立の運送事業者として特定自動車運送事業を経営しようとする者であるところ、前記認定のとおり、申請人らは被申請人会社に雇用され、その従属下にあって、自動車運送事業を経営しようとする者とはいえないから、同条違反の有無は問題にならず、この点に関する被申請人の主張は理由がない。また、被申請人は昭和四八年五月以降、被申請人会社従業員のみで配達要員を充足できる見通しがたっていた旨主張するけれども、これを認めるに足る疏明はない。

してみると、本件解雇は申請人らが前記組合を結成し、組合活動をなしたことの故をもってなされたものと推認するに難くなく、右解雇は労働組合法七条一号に反する不当労働行為に該当するものといわなければならない。

したがって、本件解雇はその余の点について判断するまでもなく無効なものというべきである。

五  以上の次第であるから、申請人らは依然として被申請人会社の従業員たる地位(但し貨物自動車持ち込み)を有しているというべきところ、≪証拠省略≫によれば、申請人らは、被申請人会社から支給される月額二〇万円の報酬を唯一の収入源として生計を営んできたものであることは明らかであるから本件解雇によって右報酬の支払いが受けられないことにより、その生活に著しい支障を来し、本案判決の確定をまっていては回復し難い損害を蒙るおそれがある。したがって、申請人らの従業員としての仮の地位を定め、その賃金の仮払いを命ずる仮処分の必要性がある。

もっとも、≪証拠省略≫によれば、右報酬のうち、月額約一〇万円はその所有する貨物自動車のガソリン代その他の経費および賃料相当額にあてられていることが認められるから、申請人らの実質的な賃金は月額一〇万円とみるべきである。

したがって、申請人らは解雇された昭和四八年五月二〇日以降は現実に就労を拒否され、かつ同年六月一日以降は何らの賃金を得ていないので、被申請人は申請人らに対し、それぞれ同日以降本判決言渡の日である昭和四九年二月二二日までは前記経費および賃料相当額一〇万円を差引いた実質賃金月額一〇万円を、同年同月二三日以降本案判決確定まではその契約内容の特殊性に鑑みて月額二〇万円の金員を毎月二八日限り仮に支払うべきである(申請人らの各供述によると、申請人らは解雇期間中、自動車を使用したりなどして他所で就労し、一ヵ月約七・八万円の収入を得ていることが認められるが、右金額は自動車の維持費および最低限度の生活費にも充たないので、申請人らの賃金請求権を減額すべきでないと考える)。

六  よって、申請人らの本件仮処分申請は、仮に従業員たる地位を定めることおよび右各金員の仮払いを求める限度において理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを却下し、申請費用の負担について民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 矢野清美 佐野久美子)

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